2014-05-14

2014年5月14日

今年ももう半分の終わりが見えてきました。終わりは始まりの予感を含むもので、なにか駆り立てられるものがあります。

いよいよ秋のリサイタルに向けて動き出す時がやってきました。
どういう空間で聴いて頂きたいか、そして、自分がどこで演奏をしたいか。あちこち探し歩いたのですが、先日伺った「求道会館」の佇まいに心惹かれ、その場でお願いし、快く承諾して頂きました。

求道会館は、百年程前に近角常観師が、西洋の宗教事情を踏まえつつ仏教界の刷新を目指し、その説法の場として建てた建物です。建築したのは、ヨーロッパ近代建築を取り入れながら古建築修復にも力を入れた、当時の新進気鋭の建築家武田五一氏です。

新しいものにしても古いものにしても、モノに対する人の思いは目に見えるものだと信じている私ですが、この建物に足を踏み入れた時に、それが色濃く見えた気がしました。

近角常観師は、アインシュタインが日本を訪れた際に対談し、仏教の心について触れ、アインシュタインは涙を浮かべてそれを聞いたという話が残っています。
「神とは人間の弱さの表れにすぎない」との書簡も残っている無神論者のアインシュタインですが、仏教に根ざす日本人の慈悲の心に触れられたことが日本での一番心に残る出来事だったと述べています。

求道会館は文京区の本郷にあるのですが、今までその存在を全く知りませんでした。
長い間眠っていたその会館を、ご子孫の建築家ご夫妻が時間をかけて修復され、十二年前に蘇らせたそうなのです。

私が建物に踏み入れた時に感じたあの空気は、若かりしの宗教家と建築家の熱い思いと、そしてそれに敬意を抱くご子孫の方々の思いだったような気がします。

階段の手すりが好き、って言ったら、その温かみが少し伝わるでしょうか。

私はその空間で何ができるかしら?
十月十八日。心して取りかからねばなりません。