「やこちゃん、これ見て!」と姉が小学生の姪の前髪をかきあげました。
「え?なーに?」
「ほらほら」と眉毛あたりを指さすので、ジーッと見たら、あ、ありました。長い毛が一本、眉毛の間からビヨーンと伸びています。
「わあ、懐かしい〜!」
そうです。私は小学生の頃、眉毛から伸びてきた1本の長い毛を育てていました。
途中から白くなり始めましたが、大切に育てていたら伸びに伸び、とうとうアゴにまで到達しました。
朝起きるとまずその眉毛の伸び具合を確かめるため、ズズズーッと指を滑らせて、一人喜んでいました。
授業中、難しい問題があると、それの根元から指を滑らせながら考えると不思議と解けたものでした。
男友達には異様がられたものですが、オトコオンナと呼ばれていても全く意に介さないタイプであったせいか、むしろ誰も持っていない宝物を手にしているぐらいの気分でした。
ある日、朝起きて、いつものように眉毛を触ってみたら、あるはずのものがありません。
慌てて鏡に走って行きましたが、影も形もありませんでした。
あの時のガッカリしたこと。
これ以上落ちないほど肩を落としていたことと思います。
また伸びて来ないかと毎日鏡を覗き込みましたが、もうお目にかかることはありませんでした。
それから何十年もして、久しぶりに小学生時代のお友達に会った時のこと。
「やこちゃん、あの眉毛どうなった?」
「え?眉毛?…あーー!」
と、それこそ何十年ぶりにあの眉毛を思い出しました。
私とセットに何十年も覚えてもらっていたあの眉毛。
可笑しくなりながらも、あの慈しむような気持ちを思い出しました。
ああやって大切にしていると、自分の身体の中にも、お友達の記憶にも残っているものなんですね。
そして、姪に生えてきた異様に長い眉毛。
「遺伝かしら〜」
懐かしい友人に会った気分です。
「いいな、いいな」「育ててね、切っちゃダメよ」
でも、次の日、当然のように切られていました。
小学生の女の子が、私に見せてくれようと、しばらく切らずに取っておいてくれたと考えただけで嬉しくて、そして、やはり昔の私は変な小学生だったのだと改めて悟りました。
また生えてきてくれないかな。