2014-04-23

2014年4月23日

今まで行ったライブ、コンサートの中で良かったのは何?と聞かれたら、まず、カッワーリの王者と言われるヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの名前が頭に浮かびます。
もう十五年以上も前に行った彼のコンサートは記憶の中で色褪せることはありません。凄まじいものがありました。

カッワーリというのは、イスラム神秘主義の儀礼的な宗教音楽です。
ヌスラットが車座になった男の人達の手拍子の中で天に向かって声を発しながら高揚していく姿は、自然でありながら自然を超えた存在であると感じさせるものでありました。
あぐらを組むように床に座ったまま歌うのですが、腰から下が巌のようで、地から柔らかい上半身が生え、まさしく豊穣、という言葉が頭をよぎりました。その顔はあくまでも厳しく、曲が激しくうねる中で静かさが増すようでした。

特に、唯一神アッラーを讃える歌は、イスラム教信者ではない私の身体の奥深くにまでも届き、細胞一つ一つに訴えかけてくるようでした。
声が響く空間の粒子と自分の身体を構成する粒子とが混じり合い、自分の境目がなくなった中での、生かされているという凝縮した実感は、喜びとして痛いほどでした。

神に近づこうとする祈りの歌は、心を開いて近づいていくゆえの生々しさがあり、それが聴く者の心の形状に合わせてぴったり張りつくのかもしれません。

こういうことを人は出来るのかという驚きは、今でも私を突き動かすものとなっています。
思い出すたびに、自分がやっていることの陳腐さに顔を歪めながらも、一縷の望みを繋いでくれるものとして、いつまでも心から離すことが出来ないものなのです。