2014-02-27

2014年2月27日

今度のレコーディングで弾く曲は、伊福部昭作詞作曲「聖なる泉」という曲で、永瀬博彦氏がソプラノと二十五絃箏用に編曲した作品です。
伊福部先生と言えばゴジラの曲が馴染み深いですが、この曲はゴジラが初黒星を喫する映画「モスラ対ゴジラ」の中でザ・ピーナッツによって歌われています。

実は私は非常に振動に弱く、ヘッドホンをつけると吐き気に襲われることもあるくらいで、ましてや大音量の映画館には恐怖すら感じます。
でも、十年ほど前にビデオで「モスラ対ゴジラ」を見た時に、ザ・ピーナッツの歌うこの曲が大好きになって、これだけは映画館で聴きたいと思ったものです。
それが、縁あって、この曲を弾かせて頂くことになり、やっぱり何者かに見られているな、と天を見上げてしまいます。

さて、「聖なる泉」は、小美人なるザ・ピーナッツが、南洋の島インファント島の住民の命の源である泉のほとりで歌う曲です。
英語でも日本語でもどちらでもない歌詞がついていて、意味はさっぱり分からないのですが、なにやら神聖な空気に包まれます。
言葉が必要であるのですが、言葉を分かる必要はないという不思議な雰囲気です。

ということで、そのままにしておいたのですが、この度この曲を弾くことになり、さて、歌詞はどんな意味だろう、どんな表現をすれば良いだろう、と楽譜に書かれているアルファベットの羅列を眺めました。

Na Intindihan mo ba
Mayroun doan maganda balon
Punta、ka lang dito
Punta、ka lang dito
Halika at marupo
Halika at marupo

うーむ。
何回眺めても全く分からない。
ただ、母音で終わっている語が多くて、伸ばす音が綺麗に響きそうです。

ちなみに、これには日本語訳なるものがあって、伊福部先生がこの内容を表すために、南の島っぽい言葉を当てはめたらしいというのが有力な説です。
その日本語訳がこれ。

導き モスラよ
汝知ルヤ
ココニ美ワシキ泉アルヲ
暫シ、ココニ来タリ
暫シ、ココニ憩エ

なるほど。
それにしても、原文にはモスラに該当する言葉はないし、最後の二行は同じはずなのに日本語訳では違うし…。
これでは歌詞ごとの表現が出来ないわ。

と、ここで、古代人の私でも出来るスマホの検索です。
キーワードっぽいのを選んで、Halikaっと…、あー、あったあ!
タガログ語だ!
そういえば大学受験で覚えました。
フィリピンの言語、タガログ語。
人生でこの知識を使うことはあるのだろうかと思った覚えがありますが、ここで使うなんて。

変なところに感激して、タガログ語辞書で調べまくったら、なかなかの確率で単語がヒットして、ブチブチ切れですが、数語以外の意味が分かりました。

「すぐに」「相互理解」「あなたの」「ですか」
「持つ」「?」「美しい」「井戸」
「場所」「のみ」「ここ」
「こちらに来なさい」「そして」「?」

うーん、なんのこっちゃ。
でも、「美しい井戸」って「美ワシキ泉」っぽいし、「こちらに来なさい」も良い感じ。
でも果たしてこの語の並びは正しいのだろうか?分からない単語や意味不明な箇所は何を表しているんだろう?
タガログ語話せる人はいないかなあ。

あ。ここで思いつきました。前にも出て来た「私同様しつこい親友」の真里がハワイ大学の教授です。環太平洋地域に強そうなハワイ大学にはタガログ語を話せる人がいるかもしれない。

そうして、国境を越えて迷惑をかけて、ピンポン。分かりました。
何語か間違いはあるけれど、きちんとしたタガログ語の文章でした。
間違い?いや、間違いではないのかもしれません。
伊福部先生はお亡くなりなっているので、真相は闇の中なのですが、伊福部先生は異様なほど博識な方です。音の数に合うように言葉を変えたり、架空の南の島っぽさを出すために少し変えたりしたのかもしれません。

いずれにせよ、この歌詞で色んな方々に歌われ、録音されているので、やはり、「聖なる泉」の正しい歌詞はこれなのでしょう。
とにかく、私は全ての単語の意味がはっきり分かり、作詞作曲された意図に少し近づけたような気がして満足したのでありました。



 *ここまで書いたので、一応タガログ語の正しい文章と直訳を…

Naintindihan mo ba      
Mayroon doong magandang balon            
Punta、ka lang dito
Halika at maupo

知っていますか
そこに美しい井戸がありますよ
ほらここにいらっしゃい
来てお座りなさい