2017-03-10

2017年3月10日

今日は風が賑やかに梢々を揺らしています。これが大きな楽器ならどんな和音を奏でるのだろうと目が離せなくなります。
光を帯びた音の粒が放たれているのが目に見えるようです。

ここ半月は録音機の前でにらめっこでした。

今年は、特別支援学校で高校一年生の時から箏の授業をお手伝いさせて頂いた生徒さんたちの卒業の年。
その生徒さんたちが箏の音色を好きになってくれたということで、私の箏の演奏を録音したものを卒業証書授与式で流してくれることになったのです。

校歌や、学校でよく歌った曲、授業で取り上げた曲、私が生徒さんのことを思って作曲した曲、合わせて9曲ほど。

授与式で、温かい空気になるよう、学校で過ごした友達や先生との日々を身体で懐かしんでもらえるよう、箏に合うようにアレンジし、録音を繰り返しました。

でも、それは簡単なことではありませんでした。
音だけで気持ちを表すのはなんて難しいのでしょう。
何十回録音ボタンを押すものの、思ったようなものは録れません。

生徒さん、先生方ひとりひとりのお顔を思い浮かべ、今までの授業を思い出し、優しい気持ちをなぞるようにしながら、何度も何度も弾き続けました。

今年の箏の授業もそれはそれは楽しいものでした。

「皆んな、一年ぶり、箏の佐藤センセイです!」
との小林篤先生のコールに、生徒さんがワァと歓声をあげてくれ、私も思わず手を上げての登場でした。

初めは箏が怖かった生徒さんも、爪をつけるのが難しかった生徒さんも、もう迷いなく箏の前に座ります。

そして初めから変わらないのは、音を出す時の気持ちの込め方です。箏に顔を近づけて、一本一本丁寧に絃を弾きます。

箏は簡単に音が出る楽器とはいえ、特別支援学校の生徒さんにとって、爪をつけて、かたく張ってある絃をはじくことは、それほど簡単なことではありません。
今やっていることに集中しないと、音が出ないのです。

ですから、生徒さんが出したその一音には、自然と心がこもっています。
たとえそれがどんなに小さい音であろうと、全身で弾いているので、音に力があるのです。
その人そのものといった音なのです。

最後の授業では、小林先生のギターと私の箏で「小さな世界」を演奏しました。

生徒さんと先生方が手を繋いでいるような空気の中で、しんとして聴いてくれ、涙を流してくれた生徒さん、一生懸命お礼を言ってくれる生徒さん、先生方と一緒に心のこもった拍手をしてくれました。そして、最後は皆んなで頑張って箏を持って片付けてくれました。

そんなことを思いながら録音をしていると、少しは心が感じられる曲も出てきました。

思いたって、2曲ほど、皆さんの心に寄り添ってきたに違いない小林先生のギターの音を入れてもらいに学校にも出かけて行きました。

もっともっとよいものをと思いつつ、時間切れでした。

それでも、最後までなんて多くのことを教えてもらえたのでしょう。なんて多くの宝物を頂いたのでしょうか。

そして、今日はその卒業式。

少しでも感謝の気持ちが伝わっていますように……。

これから先に広がる世界が、温かさと喜びに満ちたものであることを心から願って。